君のことよく知らないけど 〜延長戦〜
「リオンさん……好きです……」
リオンさんの髪の匂いを嗅ぎながら、彼の中の温度や感触を確かめる。リオンさんはほんの少しだけ上体を持ち上げるようにしながら、俺の片腕を掴んでる。久しぶりじゃないって言ってたのに、何だか体が強張っている感じがする。
「痛いですか?」
顔を覗き込んだら、片目を細めるようにしてチラッと俺を見て、また逸らした。
「いや、別に……」
「本当に?」
「ああ」
「あの、好きです」
「知ってるよ……」
リオンさんはまた何もない空間を見た。俺はしつこく食い下がった。
「好きです、リオンさんは?」
「あ……?」
「ちょっとは好きですか? 俺のこと……あの、嫌いではないですよね?」
「ん〜……まあ、別にヤなやつではないな……」
何だかさっきから煮え切らない。やっぱり痛いのかなと思ったけど、普通に勃起してるから大丈夫そうなんだけど……
俺はちょっと戸惑って、指を動かすのをやめた。そしたらリオンさんが「三怜」と呟いて、名前を呼ばれるのが嬉しい俺の心臓は跳ね上がる。
「な、なんですか?」
「お前、指長い」
「え……」
指長いのって、だめなのかな……。とりあえず一回抜こうかなと指を引いたら、
「いやいや、何、おい、」
リオンさんの中が締まり、俺の腕を掴む力が強くなる。
「え、あ……の、」
「抜かんでいい抜かんで」
リオンさんの頬が赤い。もしかして、気持ちいいのかな。
「気持ちいいですか? 指、長いから?」
「うるせえなあ」
リオンさんが俺を睨む。不思議な緑の虹彩と真っ白い白目のコントラストが、ドキドキするくらい綺麗だった。俺は実際にドキドキして、息を荒げて言い募った。
「気持ちいいの? リオンさん、俺の指、気持ちいい?」
「何お前、キモい」
「キモいじゃなくて、気持ちいいでしょ?」
指を増やして、ばらばらに動かした。
リオンさんは俺を睨んでいた目を背けて、木や波の模様がプリントされたピローケースに顔を押し付けてしまった。なんだろう、この可愛らしい仕草は。
「リオンさん可愛い……俺の指好きですか?」
「はぁ〜? 別にィ」
怒ったように俺の腕に爪を立てながら、ちんちんをどんどん硬くさせてるリオンさんを見て、俺は息苦しさを感じるほどムラムラしてしまい、さらに指を増やしながらリオンさんのちんちんを膝で刺激した。
リオンさんは喉をグルグル鳴らして俺の腕から手を離し、ベッドシーツを鷲掴んだ。
「リオンさん……かわいい、かわいい……気持ちいいね、大好き、かわいい」
ぐるぐるぐる。指を動かすのに合わせてリオンさんの喉が鳴る。耳が両方ともふんわりと立ち上がり、伏せた顔と同じ方向を仲良く向いて、何かに集中してるみたい。
「リオンさん、好きって言って。指だけでもいいから、俺の事好きになって」
「別に好きじゃないとか言ってねえって」
怒ったような声で返される。好きとも嫌いとも言いたくないみたい。その考え方に、覚めた姿勢に、俺はまたぼんやりと怒りを感じる。なんでもいいから、せめてどう思ってるかくらい示してくれてもいいのに。
「じゃあ言って。好きって言って」
俺も声を大きくしながらふわふわの耳の付け根を揉んだら、立ってた耳がふにゃりと寝た。
「好きっつーか……」
リオンさんは気持ちよさそうというよりは苦しそうな様子で言った。
「クソ気持ちイィ」
「何それ……」
俺にも耳があったら寝ていただろう。脱力して、でも間違いなく嬉しくはあって。
「もう! 可愛いから挿れてあげますね」
頭を撫で撫でしながら膝でリオンさんの太ももを割ると、リオンさんは舌打ちした後また喉を鳴らした。本当に可愛い。何時間でもこうしていたい。
呪文のように彼の名前を呼びながら、ペニスを粘膜に押し当てた。リオンさんは濡れたため息をつきながら体を捻って枕に抱きつく。その腰を抱え直しながら、ずぶずぶと侵入する。俺も「クソ気持ちイイ」って叫びたくなった。
ずぶずぶずぶずぶと抽送を繰り返す。
リオンさんのふわふわの髪が揺れる。
絵筆を滑らせたような横顔のラインから、透明な汗が落ちるのが見える。俺の目にはその汗の粒が、まるで水晶玉みたいに周りの景色を映し出し、くっきりとスローモーションで見えた気がした。ヘンなクスリはやったことないけど、キマってるってこういう感じなのかなと思う。
そんな訳で、俺の腰はいつの間にかすごい速さですごい強さで振られていたらしい。リオンさんの頭はガクガクと揺れ動いていて、ほっそりとしたステキな指が形の崩れた枕を鷲掴み、喉からは相変わらずぐるぐると唸り声……に混ざって何か喋っていることにようやく気がついた。
「え、なんですか?」
彼の口元に耳を寄せる。俺に何か訴えようと開いた唇に舌を突っ込みたくなるのを我慢してその声に耳を澄ます。
「……って」
「え?」
「いいって……」
「いい? 何がですか? 気持ちいい?」
「ち、が……も、いい……いく」
いく? いくって、あの、いっちゃうってこと?
つまりやめて欲しいのか(まだいきたくないから)、もっとして欲しいのか(いきたいから)、どっちなのかわからないから俺は聞いた。
「どうして欲しいですか? もっと? まだ?」
「…………」
リオンさんは返事をしない。膜のかかった様な瞳で俺を睨み、喉仏を動かして唇を噛み締めながら下を向く。不意に寒気が襲い、悪夢の様な記憶が蘇った。
リオンさんが他の男に抱かれ、甘い声をあげている。
俺は鳥肌の立った腕を振り上げて彼の太腿を掴み、横に押し広げた。リオンさんは俺が今まで聞いたこともない怒った獣みたいな声を上げ背中を反らせた。これは初めて聞く声だと気付いたら寒気は止まった。
「なんですか、その声。もっと可愛い声出ますよね」
彼の薄いお腹を抱え直して更に押し入ると、枕を掴んでいた手が予想外の速度で振り上がり俺の顔に伸びてくる。
危うくひっかかれる寸前で避け、捕まえて力づくでシーツに押し付けた。リオンさんなんて、俺より小さいし、細いし、家でずっと座ってる仕事だし……体力勝負の仕事してる俺に敵うわけ無いのに。いい加減、少しは俺の思い通りになってよと思ってしまった。
「リオンさん。聞こえてる?」
手に力を、彼に体重をかけて話しかける。リオンさんは声にならない音で俺に応える。
「俺相手じゃ出ないんですか? あの声。ねえ。約束したじゃないですか。俺と付き合ってくれるんですよね? それって俺のこと好きになってくれるってことですよね? 俺のこと好きなら出来ますよね? 違いますか? 俺、言う通りにしましたよ。リオンさんも言う通りにしてくださいよ」
〈あの日のこと〉を思い出したら頭の中がうねり出して言葉が勝手に絞り出されてくる。
リオンさんは俺のことを好きになるとは一言も言ってない。そんなのわかってる。でも俺は案の定、彼の中に入り、彼の体内を感じ、彼が俺を”物理的に”とは言え”受け入れて”いるのを体験したら、なんというか……こうなってしまった。
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