君のことよく知らないけど 〜延長戦〜

12. リオン

 三怜が少し落ち着いて、少し離れたフローリングの上に座り込むのを見届けてから、シーツの上に寝転がってアマデオの手を引く。
「最後までやっていいんですよね?」
 アマデオの「最後」の部分で、三怜の体が震えるのがわかった。
「いいよ。早くやろ」
 三怜が鼻をすする音が聞こえる。俺が興奮してきていることに気づいたアマデオが、「しょうがないですね」みたいな顔で俺を見下ろす。
「三怜、見てる? ちゃんと見てろよ」
 下を向いたり、横を向いたり、落ち着かないその横顔に声をかける。三怜は目の下の皮膚をヒクつかせながら俺を見た。
「アマデオ、お前が脱がせて」
 三怜を見ながら言ったら、アマデオは返事をせずに、いきなり俺のベルトを外し、ハーフパンツをずり下ろした。上から脱がされるかと思ったから、妙にどきっとしてボクサーに包まれた陰茎が甘勃ちした。
「人に見せつけて興奮するなんて、ほんとに趣味悪いですね」
 布の上から亀頭を撫で回しながら、アマデオは俺に覆いかぶさってくる。ヤラシイ小声が耳にすべり込んでくると、あっという間に勃起した。三怜は青ざめるのを通り越して、土気色の顔で俺を見ている。
「上も脱ぎたい?」
 アマデオが俺のシャツの中に手を入れながら訊いてくる。なめらかな手のひらが俺の脇腹を撫でる。
「脱ぎたい。脱がして?」
 三怜の好きな甘え声を出したら、三怜の股間がテントを張り、俺の太ももに当たっていたアマデオのちんこもデカくなるのがわかった。
「ルカさんかわいい。今日は甘えん坊ですね」
 三怜がリオンと呼ぶのを聞いても、アマデオは俺のことをルカさんと呼んでいた。俺のシャツを脱がそうと裾をまくり上げる彼を見上げながら、
「リオンって呼んで」
 と頼んだ。
 俺をバンザイさせてシャツを両腕から引き抜きながら、アマデオは男らしい顔を緩ませた。
「彼氏になりたくなっちゃうからダメ」
「いいじゃん。呼んで」
 裸の上半身を起こしてアマデオに抱きつきながら三怜を見ると、ヤツは片手で口を覆いながら俺を睨みつけていた。そんな目で見られたのは初めてだった。チンコが痛いくらい膨張した。
「リオンさん」
 アマデオが俺を抱きしめながら言う。三怜は口に当てていた手を持ち上げ、今度は額に手を当てて軽く目を閉じた。頭が重たそうに下を向いている。目を開けろ、と言おうとした瞬間、半眼になって俺を見る。わかってますよ、とその目が言った。いつも俺のことを大好物のケーキか何かを見る様にして見ていたその目が、殺してやる、と言っている。今度はきっと、俺の目の方が、大好物を前にしてとろけていることだろう。
「ちんちん痛い。触って?」
 アマデオの手を引っ張って甘えると、ニコニコしながら俺の頭を撫で、「お口でしましょうか」と聞いてきた。
「してくれんの?」
「してあげる」
 アマデオはまた俺を押し倒し、俺の両膝を立たせると、その間に頭を埋めてパンツの上から舌を這わせた。
「あっ……アマデオ……直接して」
「どうしようかな」
 アマデオのゴツくて長い指が、俺のパンツを引っ張ったり戻したりする。先っぽが濡れ始め、モスグリーンの生地がそこだけ深緑色になった。
「あっ、早く、なあ早くして、ちんちん辛い……」
 腰を浮かせながらアマデオの髪に触る。コシのあるウェーブがかった茶色い髪。形のいい頭。そこから低く「まだ我慢して」と吐息混じりの声が鳴る。何から何まで俺の好みだ。でも、こいつとデートしたり電話したりしたいなんて思ったことは……ないと思う。三怜が呼吸するようにそんな話ばかりしてくるせいで、俺のラグジュアリーなセルフケアタイムに雑念が混じる。
 ごく小さい俺の舌打ちに気づいたアマデオが、気遣わしげな瞳で俺をチラッと見上げた。賢く従順な犬の瞳。ふわふわの茶髪に手を伸ばして引っ張った。
「いたた……リオンさん?」
「おいで、俺のカワイイわんちゃん」
 アマデオの唇が好きだと三怜に言ったことがある。誰と寝るところを見せられるのかと聞かれ、アマデオだと答えた時に。
『通ってる店全部で誰かと寝てるんですか?』
『そんなモテねーよ……』
『……彼のことが好きなんですか?』
『そうだな、気に入ってる。顔とか』
 顔と聞いて、三怜は眉をひそめた。
『顔……って、そんなに大事ですか?』
 最高。いかにも顔がゴージャスなやつが言いがちなセリフって感じ。嫌味なヤツ。ムカついたから、薄くて動きの無いその唇を見て言ってやった。
『大事だな。特にあのエロい唇が』
 その大事なエロい唇が、大きく横に広がってニコニコしながら俺にキスしてくる。アマデオの口角を見ていると、とてつもなく甘ったるい気分になる。めちゃくちゃスケベな持ち上がり方をするから。
 三怜の鼻をすする音が聞こえた。


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